ユング心理学の視点から見た日記。スーパー戦隊シリーズ キョウリュウジャー、トッキュウジャー、東のエデンのレビューと感想。エニアグラム、子どもが育つ魔法の言葉、話が通じない人の心理、自分に気づく心理学。ドラマやアニメから学ぶ人生観。
 
ミヒャエル・エンデ作

モモ
時間どろぼうと、ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語


そのレビューと感想



第12回「鏡のモモ」


(第7章「友だちの訪問と敵の訪問」より、その3)


みんなで話したつぎの日から、モモは古い友だちたちを たずねてあるきはじめました。

なにが起こったのか?

どうして、話をしに来てくれなくなったのか?

それを聞きだそうと思ったのです。


まず、はじめに行ったのは、左官屋のニコラの家。

けれど、ニコラは、るすでした。

聞いたところでは、ニコラはいま、あたらしい住宅地区で働いていて、すごく金まわりがいいらしい。

めったに家には帰らず、帰ってくるにしても、たいていは夜おそく。

それによっぱらっていることが多くて、そうなると、まともにつきあえないのだという。


モモは、ニコラを待つことにしました。

部屋のまえの階段に腰をおろし、じっと待つ。

そしてそのうち、眠りこんでしまった。


物音と歌声に、モモは目をさましました。

ふらふらと階段をあがってくるのは、ニコラ。

彼はモモを見ておどろくとともに、まごついたような顔をした。


モモが用があるのだとつげると、ニコラは笑いながら頭をふって言いました。

夜中にたずねてくれるなんて、おまえくらいのもんだ。

おれだって、とっくにおまえに会いに行ってよかったんだ。

けど、ひまがなくてね。

そんなわたくしごとにはね。


モモとならぶように階段に腰をおろし、ニコラは聞きました。

なあ、おれはいま、どうなってると思う?

もう、むかしのようじゃ、ないんだぞ。

時代はどんどん変わる。

世の中は、まるっきりちがうテンポで進んでいる。

まるで、悪魔みたいなテンポだ。


話はやがて、仕事のことになりました。

今では、一日でビルの一階がまるごとできあがるようなスピードなのだそう。

それが毎日毎日、繰り返される。

すべてが組織だっていて、プラン通り。

ひとつのこらず、きちんと決まっている。


そう話すニコラの口調は、だんだんと元気をなくしていきました。

実のところ、ニコラは飲まずにはおれないのだという。

飲まないと、あそこでやっていることに、もうがまんできなくなる。

町での仕事は、ニコラが思うに、まっとうな左官屋の良心に反するような、そんな仕事だったのです。

モルタルにやたら砂を入れる、インチキ工事。

建っている家は、死人用の穴ぐらのようだという。


ニコラは、自分に言い聞かせるように、こう話しました。

そんなこと、おれになんの関係がある?

おれは金をもらう、それでけっこうさ。

時代は変わった。

そのうち金がたまったら、おれはじぶんの仕事とおさらばして、なにかべつのことをやるよ。


ニコラは最後に、モモにこう言った。

ほんとうにまた、おまえのところに行って、なにもかも洗いざらい話さないといけないんだろうな。

そうだ、そうしないとだめだ。

さっそく、あしたはどうだろう?

それとも、あさって?

いつがいい?

いつならつごうがいいか、おれも考えないといけない。

でも、きっと行くからな。

いいかい?


モモはうれしくなって、「いいわ」と答えました。


けれどもニコラは、次の日も、その次の日も、モモのもとにはやって来ませんでした。




次にモモは、居酒屋のニノと、そのふとっちょのおかみさんに会いに出かけた。

モモがいぜんのように裏口にまわると、ニノとおかみさんが言い争っている声が聞こえました。

中をのぞくと、ふたりがけんかしている横で、ふたりの赤んぼうが かごの中で泣いている。

モモは赤ちゃんのそばにすわると、ひざに抱きあげ、泣きやむまでやさしくゆすりました。

するとニノ夫妻がそれにきづいて、けんかをやめた。


やあ、モモ、来てくれて、うれしいよ。

そう言ったニノですが、その笑いとはどこか、とってつけたよう。


モモは、聞きたいことがあるの、と言いました。

どうしてこんなに長く、あたしのところに来てくれなかったの?


「おれにだってわからねえよ!」と、ニノは声をあらげた。

「いまはおれたちにゃあ、ほかの心配ごとがあるんだ」


それをきっかけに、夫婦げんかがむしかえされました。

おかみさんのリリアーナは、ニノがむかしからのだいじなお客さんを追いだしたことに怒っているのです。

いつもすみのテーブルにすわっていたじいさんたちを、ニノは追い出したのだという。


追い出したんじゃないと、ニノは弁解しました。

ほかの酒場をさがしてくれと、ていねいにたのんだのだと。

「おれは主人だ、そうする権利がある」と、ニノは言った。


「権利、権利だなんて!」と、リリアーナはくってかかりました。

あんなことは人間のすることじゃない。人の道にはずれている。卑劣(ひれつ)だ。

あのじいさんたちがほかに行くところがないことくらい、よくわかってるだろ。

それに、うちに来たって、だれのめいわくにもなってなかった。


それはニノも、しょうちしていました。

けれど、じいさんたちがいるせいで、金ばらいがいいお客がうちによりつかなかった。

だいたい、毎晩、安い赤ぶどう酒一杯きりなんて、ちっとも、もうからない。

そんなことつづけていたら、こんりんざい成功できねえぞ!


いままでは、それで生活できてたじゃないか!

おかみさんは、そう言いかえしました。


だが、ニノも言いかえします。

いままでは、たしかにそうだった。でも、家主が家賃を上げたうえに、物価はなにもかも上がってきている。

このままじゃ、店はもたない。

なんでおれが金のないおいぼれの心配までしてやる必要がある?

おれの心配をしてくれるやつは、いねえんだぞ?


こんどは、リリアーナのほうが言いました。

おまえさんの言う金のないおいぼれには、あたしのエットーレおじさんも入ってるんだよ!

あたしの身内のことを悪くいうなんて、ゆるさないよ!

おまえさんのいう金ばらいのいいお客ほど金持ちじゃないかもしれないけど、りっぱで、信用できる人なんだからね!


エットーレは別だと、ニノは言った。

あの人は来ていい。

そう言ったけど、あっちがいやだと言ったんだ。


もちろん、おかみさんは、なっとくしません。

友だちぬきで、来るわけない。

おじさんをたったひとりで、すみっこにすわらせとけばいいのかと、おかんむりです。


成功したいのだと、ニノは言います。

けちな居酒屋の主人で、終わりたくない。

店をはんじょうさせて、りっぱにしたい。

それはおまえのためでもあり、子どものためでもあるじゃないか。


「分からないとも」と、リリアーナはきびしく言いかえしました。

思いやりのないやり方でしかやれないなら、あたしはごめんだよ!

あたしゃ、いつか出て行きますからね。

あとはおまえさんの好きにするがいいさ!


そう言うとおかみさんは、モモのひざのうえの赤んぼうをひったくって、出て行ってしまいました。


ニノは長いあいだ、何も言わなかった。

ただ、たばこを指でいじくりまわしている。

モモは彼に、じっと目をむけました。


「ほんとにいいやつだったな」と、しばらくしてからニノは言った。

おれだって、あのじいさんたちが好きだった。

あんなこと言うの、ほんとうは、おれだっていやだった。

でも、どうすりゃいいんだ?

時代は変わったんだ。


ちょっと休んでから、またニノがつづけました。

リリアーナの言うとおりかもしれない。

じいさんたちが来なくなってから、おれにも、じぶんの店がじぶんの店じゃなくなった気がする。

ひえびえとしてるんだ。

じぶんでもいやになったよ。まったく、どうしたらいいか、わからないんだ。

だが、いまじゃ、どこの店だってそうしている。

どうしておれだけが、ちがうやり方をしなくちゃならない?

おまえもそうしたほうがいいと思うか?


モモは、かすかにうなづきました。


すると、それを見てから、ニノもうなずいた。

そしてふたりは、にっこりしました。


「おまえが来てくれてよかったよ」

ニノは、そう言った。

おれはすっかりわすれていたけど、いぜんならこういうとき、<モモのところへ行ってごらん!>、みんなそう言ったもんだ。

でも、こんどは、おれも行くよ。

リリアーナとな。

いいか?


「いいわ」と、モモはこたえました。


ニノとおかみさんは、ちゃんとやって来ました。

赤んぼうをつれて、おいしい食べものをおみやげに、やって来た。


おかみさんの顔は、かがやいていました。

うれしそうに話したことによれば、ニノはじいさんたちひとりひとりをまわって、あやまったのだという。

また来てくれと、頭をさげた。


そして、じいさんたちはまた、来てくれるようになったのだといいます。

ニノは言いました。

店のはんじょうはのぞめないだろうけど、でも、おれの気に入った店にまたなったよ。


その日は、すてきな午後になりました。

ニノとおかみさんは、また来るとやくそくして、帰っていった。



モモはつぎつぎと、古い友だちをたずねました。


要するに、いぜんにモモに話を聞いてもらったことのある人、それで分別(ふんべつ)がついたり、決心ができたり、気持ちが明るくなったりした人をぜんぶ、たずねたのです。

(P116)




たずねた人はみんな、モモのところへ行くと約束しました。

その約束をまもった人もいます。

また、まもらなかった人も、まもれなかった人もいる。

ともかく、本当にやって来た人については、いぜんと変わらないつきあいが復活しました。


ただ、このことが、思わぬじたいを生んでしまった。

そうしようと思ったわけではありませんが、モモはけっかとして、灰色の男たちのじゃまをすることになってしまったのです…





モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語 (岩波少年少女の本 37)






<感想>


モモは鏡です。

モモと話していると、話している方は、やがて自分が見えてくる。


ジジは言いました。

モモに話を聞いてもらっていると、みんな自分を思い出す。


話しているうちに、だんだんと自分のことが見えるようになってくるんです。

本文中にも、こうあった。

「要するに、いぜんにモモに話を聞いてもらったことのある人、それで分別(ふんべつ)がついたり、決心ができたり、気持ちが明るくなったりした人をぜんぶ」


要するに、モモに話を聞いてもらうと、その人は自分の中にあって、それでいて気づいてなかったものに、気づくことになる。

だから、ハッと思い直したり、踏ん切りがついたり、物事が見えてきたりする。

でも、それは同時に、ちょっとつらいことでした。


ニコラは今の自分がどんなものなのか、うすうす分かっていた。

もし分かってなければ、悩まなかったでしょう。

時代の渦の中で、適応して生きてゆけました。

でも、ニコラはうすうす感づいている。

だから、つらい。

酒でも飲まないと、やってられないほどに。


でも、完全に気づくのは、とても苦しい。

分かるというのは、いいことばかりではないのです。

だから揺れるし、今はまだ、モモに会いに行くわけにはいきませんでした。


モモと話すと、自分自身の姿が、映しだされるから。

見ないでは、おれないから。


気づくのは、大事なこと。

でも、同時に、怖ろしいことでもあるのです。

時に、鏡をのぞくのには、勇気がいります…





Dr.パルナサスの鏡 プレミアム・エディション [DVD]



鏡のなかの鏡―迷宮 (岩波現代文庫)





もし、お金がたまったら。

もし、○○になったら。

その先にあるのは、何?





 <<「(11) 親の言うこと」
    「(13) 完全無欠のビビガール」>>




関連記事
[サイト内タグ]:  ミヒャエル・エンデ「モモ」



ブログランキング・にほんブログ村へ
BlogPeople「人間・哲学/人間考察」
blogram投票ボタン


ランキングに参加しています
よかったらクリックしてね


秋だから、実をためる


↑ページトップへ


■ 最近のエントリ

■ 人気ページランキング


↑ページトップへ




// HOME //
Powered By FC2ブログ.
copyright © 2005 枕石漱流 日記(ユング心理学の視点から) all rights reserved.
ブログパーツ アクセスランキング
■ Amazon
■ 注目記事
■ アーカイブ
■ カテゴリ

■ 月別アーカイブ

■ 検索ぷらす


【注意】 ENTERキーだとうまく表示されないようです。申し訳ございませんが、ボタンを押してください。

■ キーワードハイライト機能

検索時、検索語句がハイライトされます。

■ BlogPeople リンクリスト

リンク集と更新状況↓



☆登録する by BlogPeople☆

■ RSSリーダーに登録

 RSSリーダーで購読する

 メールで購読する


(リンク切れを修正しました)


■ 最近のトラックバック
■ スポンサードリンク

■  
■ スポンサードリンク



■ 最近の記事
■ カレンダー

05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

■ FC2カウンター



現在の閲覧者数:

■ プロフィール

南方 城太郎

Author:南方 城太郎
生息地:関西
分類:昭和人間
生まれ:
黒電話、赤電話が主流で、冷房は扇風機、暖房は石油ストーブと炬燵という時代


日記について


拍手する

プロフ
電脳露店マイアソシエイトストア
おバカ映画

■ リンク
■ RSSフィード
■ インフォメーション


検索サイトiscle
(検索サイトさんです)

■ QRコード

QRコード

携帯でも御覧になれます。

■ 地域情報



ジオターゲティング





■ にほんブログ村

■